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COLUMNコラム 手芸屋のはなし

【ロングインタビュー】刺しゅう作家 マカベアリスさんにとっての手仕事とは?

#インタビュー
季節の草花・植物を独特の世界観で表現する作品が人気の刺しゅう作家マカベアリスさん。 このコラムのためにお時間をいただき、お話しを伺うことができました。
刺しゅう作家 マカベアリスさんにとっての手仕事とは?

書籍や個展などの作家活動だけでなく、ワークショップや講座の講師としてもご活躍されているマカベアリスさん。
まずは月並みですが、こちらの質問からスタートさせていただきました。

刺しゅうをはじめたきっかけは?

―刺しゅうをはじめたきっかけはなんだったのでしょうか?

マカベさん
きっかけ、といいますか…
それまでも手芸や洋裁をしていたのですが、ある日「このまま趣味で終わらせたくない!」という強い創作意欲がわいてきたんです。

もともと「布と糸が好き」ということはあったのですが、その中でいろいろ模索した結果、私が表現したいものには「刺しゅう」という表現方法が一番合うという所に辿り着きました。

―刺しゅうはどこかで学ばれたのですか?

マカベさん
いいえ!まったくの独学です。
本を見たりして、自分で覚えていきました。

―すごいですね!では、小さい頃から家庭科も得意だったんでしょうね!

マカベさん
いいえ!それがまったく!学校の家庭科は苦手でした。

―え?意外です。どうしてですか?

マカベさん
家庭科で作る作品は、もう完成する形がわかっているじゃないですか。
「こういうものを作ります」というような「できあがりが見えている」ものを作るのは、苦手だったんです。

―マカベさんの中では創造することが、昔から大事だったということですね!

―では作家として、初めて他の方に作品を見てもらったのは、どのような機会だったんでしょうか?

マカベさん
当時はブログで自分の作品をアップしていたのですが、それを初めたと同時に、子どもの学校のお母さんのひとりから声をかけてもらいました。
その方は、私の作るものに以前から興味を持ってくださっていたので、四ツ谷のギャラリーを複数の作家さんで借りるという時に、一緒に参加してみないかと誘われました。
直接作品を人に見てもらったのはそこでの展示が初めてだったと思います。
そのあと、他のギャラリーから「作品を取り扱わせてほしい」などの話があったりもして。

―積極的に自分から売り込みに行ったりなどはしなかったのですか?

マカベさん
そうですね、私の場合「人の縁」にめぐまれたというか…。
周り方の紹介などで、少しずつ活動の範囲が広がっていった感じなんです。

ただ、積極的に行った活動もありました。
私と、染め物作家の方、洋裁作家の方、3人でユニットを組んで活動をしていた時期がありまして。
染め物作家の方が染めた布に、私が刺しゅうをして、洋裁作家の方が仕立てる、というように3人で一つの作品を作って発表していました。
3回ぐらいですかね、自分たちで展示会も開催していました。

―今は一緒には活動されていないんですか?

マカベさん
はい。活動していたのが、2012~2013年頃の話なので、もうだいぶ前なんです。
今はそれぞれの事情や環境の変化もあり、作品を一緒に作ったりはしていないです。

―そうなんですね!
機会があったら、ぜひマカベさんと他の作家の方のコラボ作品、見てみたいです!

想いを込めた、大切な作品について

―今までで一番印象に残っているお仕事・作品を教えてください。

マカベさん
一番印象に残っている、というか想いが強い作品は「野のはなとちいさなとり」という絵本です。

マカベさん
5年ほど前に出版された絵本なのですが、中に出てくる刺しゅう作品はもちろん、物語も自分で考えたものなんです。

この絵本も、人とのご縁から形になったものなんです。
7年ほど前に、ある出版社でブックカバーなどのオリジナルアイテムを作るお仕事をさせていただいて、その時の担当者さんから
「マカベさんの作る刺しゅう作品には、物語を感じる。
絵本を出してみない?」

とお話しをいただいたんです。

実は私、絵本にはとても強い想い入れがありまして…。
もともと保育士をしていて、子どもたちへの絵本の読み聞かせの時間が、本当に大好きでした。
その後も、息子が小学生のとき6年間、読み聞かせの担当をしていたんです。
そんな訳で、絵本に携わることができるこのお仕事のお話をいただいたとき、
「やります!」 と、即答でお答えしました。

ただ、絵本を作ることはもちろん、物語を作ることも、何もかもはじめてで…。
いろいろ試行錯誤した末に完成した、とても大切にしている作品です。

―私も拝見させていただきました!
確かに、マカベさんの作品は刺しゅうだけでもストーリー性を感じますが、それが文字と一緒になることで、言葉の響きとともに楽しめる一冊でした。

作品作りについて、教えてください

―1つの作品を作り出すための作業の流れを教えてください。

マカベさん
私の場合、まずはイメージを固めることからはじめます。
お仕事によってはモチーフの指定があったりしますので、そのテーマについて調べることからスタートするんです。
資料を見たり、ネットで検索したり…。
色味の指定がある場合もありますので、この時点である程度、作品のカラーも決めてしまいます。

その次に行うのがiPadを使っての「イメージ画」作りです。
私は、Procreate(プロクリエイト)というアプリを使用しています。
昔はアナログに書いていたのですが、この「イメージ画」作りの段階では、色を変えたり、配置を変えたり、どんどん修正が入りますので、デジタルで変更できるのがとっても便利です。

全体の構図となりますので、この段階で作品の大きさも色も決めてしまいます。

―マカベさんの作品は、その配色もとても魅力的なのですが、イメージした色が刺しゅう糸になかった、なんてことはないんでしょうか?

マカベさん
私は普段、オリムパスの刺しゅう糸を使用しているのですが、使う糸の色番はもう頭に入ってしまっている感じです(笑)
「ここは●●番を使って、こちらは■■番にして…」みたいな感じで組み立てていくんです。

―あんなにたくさんある刺しゅう糸の色番を覚えているなんて…すごいです!

―刺しゅうに使う道具はどのようなものを使っていますか?おすすめのものがあれば教えてください。

マカベさん
トーカイさんの取り扱い商品ではないんですが…。
刺しゅう針は、京都のみすや針さんのフランス刺しゅう針を使っています。
私にはとっても合っていて、縫いやすいんです。

あと、レッスンの生徒さんたちなどには『“糸切りばさみ”は、よく切れるものを使った方がいい』と言っています。
刺しゅうは細かな糸処理が必要ですし、余分な糸を上手くカットすることが作品の完成度に関わってきますので、糸切りばさみはとっても重要なんです。
質のいいものを使うのもいいですが、消耗品と考えて、お安いものを頻繁に取り替えて使うのもおすすめです。

―作品作りの際、刺しゅうの道具以外に「これは絶対必要!」というものはありますか?

マカベさん
ラジオです。
図案を作る際は、無音で行っているんですが、針を動かす作業に入ると、ラジオが欠かせません。
朝から晩までずっとチクチク、孤独な作業と向き合っているときは、ラジオから聞こえる日常的で他愛ない話題がちょうど心地がいいんです。
よくTBSラジオさんにお世話になっています(笑)

―制作に行き詰ったときは、どのようにリフレッシュされるんですか?

マカベさん
煮詰まってしまったときは、一旦その作品から離れます。
他で同時進行している作品があれば、そちらを行いますし、手を放して違う作業を行います。
あとは、部屋や作業場を片付けたり、お料理を作ったり…ケーキを焼くこともあります。
短時間で達成感が得られることをすると、気持ちが切り替わって、また作品作りに向き合えるんです。

―作品作りに影響を受けている人・モノはありますか?

マカベさん
特に作品作りの参考にしているもの、というのはないのですが、
最近、府中市美術館で行われていた「アーツ・アンド・クラフツとデザイン」に行ってきました。

デザイナーのウィリアム・モリスを中心に、19世紀のイギリスで始まったデザインの革新運動がテーマに開催されていました。
産業革命による大量生産で安価なもの・粗悪なものがあふれる時代に、デザインの大切さを訴えた活動が、とても分かりやすく展示されていました。
ウィリアム・モリスと言えば壁紙が有名ですが、そうした生活の中に自然からモチーフを得たアートを取り入れることの大切さを主張する考え方に感銘を受けた、というかとても共感できました。

ウィリアム・モリス いちご泥棒・格子垣

「丁寧な手仕事によって日常を美しくする」という強い理念があるからこそ、現代もなお、多くの人に愛されるデザインである、ということも納得ができて素晴らしいな、と感じました。

―ウィリアム・モリスの作品では、自然の樹木や草花をモチーフにしたデザインがよく知られていますが、マカベさんの作品も植物をモチーフにしたものが多いですよね?

マカベさん
植物が好きなんです。
作為(さくい)のない美しさというか、誰かに見てもらおうとする訳でもなく、季節で移り変わる命を謳歌している姿に癒されるんです。

―マカベさんの作品の植物は、親しみがありながら、実際のものとは少し違っていて…幻想的な雰囲気を感じます。その点はいかがでしょうか?

マカベさん
例えば「たんぽぽ」という植物がありますが、「たんぽぽ」という名前は、人間が付けたものですよね?
たんぽぽ自体は「私はたんぽぽ」と思ってないのじゃないですか?
仕事のリクエストにもよりますが、私自身なるべく作品のモチーフは、写実的にならないようにしています。
人間が作った名前やイメージにとらわれ過ぎない、植物のあるがままの、イキイキしている様子を、私なりに表現した姿で作品にしたいと思っているんです。

刺しゅう・手仕事について…

―最後に、今から刺しゅうをはじめたい、と思っている方にメッセージをお願いします。

マカベさん
刺しゅうといいますか、手仕事全般について言えることだと思うのですが、
手を動かしていると、頭がすっきりする感覚ってあると思うんです。
生きていく上でいろいろ悩んだり、苦労することがある中、手を動かしていると“無心”になれ、頭をお休みさせてあげられる、と思います。
そういうホッとできる時間は、暮らしをより豊かにしてくれますし、自分にとって財産になります。

そして何により、上達できると楽しいじゃないですか!?
私としては、手仕事を「楽しんで」ということを皆さんに伝えたいです。

マカベさん、貴重なお話しをありがとうございました。

穏やかな口調でお話しをしていただいた中からも、植物に対する想いや自分で創る・創造することへのこだわりが感じられ、マカベさんの作品をまた違った角度で見てみたいな、と思いました!